ざっと数時間休む事無く走り続け、追っ手も完全に撒いた俺はようやく『七夜の森』に到着した。

ほんの一週間程前にここに来た時は鳳明さんもいた、虎影さんもいた。

そして俺に道筋と新しき相棒を与えてくれた。

しかし、もう二人はいない。

ここより先は俺が執り行う仕事だった。

しかし・・・

「これは・・・」

月明かりの下、里の様子は様変わりしていた。

全身に纏わりつく重りのような瘴気。

霊感が強くない者でもおそらくはっきりと見えるだろう。

そこかしこに老若男女の魂魄が浮遊している。

これらの魂はおそらく今まで『凶夜』として迫害を受けそして死んでいった者達・・・

『凶夜録』の数々の悲劇すら氷山の一角に過ぎなったと言う事。

その魂魄が怨念と共に里を覆いつくしていた。

意識しなくても耳に飛び込んでくるのは苦悶に助命、そして怨念の呪詛。

"苦しい・・・"

"助けて・・・助けてくれ・・・" 

"お願いです・・・この子だけは・・・"

"何で俺達が・・・殺されなきゃならない・・・"

"いや!!やめてぇ!!"

"憎んでやる・・・呪ってやる・・・"

そんな怨念に辟易しながらも目的の『聖堂』に到着する。

だが、聖堂の状態は里を凌駕していた。

形にならない怨念が瘴気の塊と化して、足に、腕に、ありとあらゆる箇所に纏わり付く。

今着ているコートと服に編みこまれた退魔の祝詞のおかげかやや重く感じるだけで済んでいるが、何の準備のしていない者は身動きすら取れないだろう。

そんな瘴気を掻き分けながら突き進み、やがて俺は一番奥の祭壇に到着した。

しかし、俺の目指すものはこの更に奥にこそ眠る。

俺は静かに『古夜』を構える。

瞳が蒼から銀、そして虹に・・・『極無』と化し一点を貫いた瞬間、祭壇は姿を消し、通路が姿を現す。

それと同時に瘴気が潮を引く様に奥へと流れ込んでいく。

そのおかげか身体が軽い。

そして、この奥にこそ『七夜聖堂』の本当の意味がある。

この奥に未だ眠りについている筈の『凶夜』を封印する為に『七夜』は歴代の七夜当主の魂魄をもって封印の糧としていた。

その糧も既に存在しない。

後はここに封じられたものは自然に這い出るだけ・・・

「・・・行こう」

俺が一歩踏み出そうとした瞬間、後ろから気配がする。

振り返れば俺を追って来たのだろう。

教会と協会のハンターがそこにいた。

人数にして七人。

「はあ・・・あれだけ完全に撒いた筈だったんだがご苦労な事で・・・だが、俺はお前達に付き合っている時間も暇も無いここから立ち去ってくれ・・・と言っても帰らないか」

俺の最後の愚痴に呼応する様に無言でそれぞれ得物を構える。

仕方なく『古夜』を構え直そうとした時、俺の眼に信じ難い光景が現れた。

「!!ぎゃあああああ!!」

突如一人が串刺しにされた。

四方八方の空間から噴き出したドス黒い触手に・・・

そして俺にはその触手に見覚えがあった。

「あれは・・・乱蒼の・・・」

七夜乱蒼の『力の象徴』、『千の空間を支配したもう千の腕』??

何故だ??

乱蒼はあの時魂も死に臥した筈・・・

それがどうして・・・

「な、何だ??」

動揺したのは俺だけではない。

ハンター達も咄嗟に俺と距離を置き周囲を索敵している。

だが、それを嘲笑うように

「ひ、ひいいいい!!」

また一人死んだ。

それも今度は背後から現れた真紅の魔狼によってずたずたに引き裂かれ更には残された魂魄はその狼に食われた・・・

「今度は幻陶の・・・『魂と共存せりし魔狼』かよ・・・」

更に惨劇は止まらない。

「うわあああああ!!!」

「ぎやああああ・・・・」

「ああああああ・・・ぎ、ぎええええ!!」

「「ううっ・・・ひいいいいいい!!!・・・ひ、ひひひひひひひひひ・・・ひゃーーーーーーはっはっはっ!!!」」

残り五人の内三人も一瞬で殺された。

一人は見覚えのある異生物に切り刻まれ、一人は周囲から現れた暗き穴から沸いてきた死徒によって、一人は操られる様に自らの得物で自らの命を断ち切り、そして残された二人は急速に地面に這い蹲るとやがてのた打ち回り、やがて口角から泡を吹きだし狂った様に笑い出した。

無論だが五人は完全に死亡、残り二人は精神が完全に崩壊している。

「こ、これは・・・」

どれもこれも『六遺産』の象徴・・・紅玉・青玉の『理の異なる世を繋ぐ獏』、風鐘の『時空を釣堀とせん翁』、紫影の『全てを傀儡たらしめる道化師』、籠庵の『夢の語り部となす琵琶法師』・・・

「一体・・・何故こいつらが・・・」

「その理由教えそうか?七夜志貴」

自問した俺に背後から聞きたくない声が聞こえた。

振り向くとそこには

「久しいな七夜志貴」

「乱蒼・・・」

最初の遺産七夜乱蒼がいた。







「な、何故・・・」

俺はそう呟く事しか出来ない。

「お前は確かに・・・」

「そう・・・確かに私は七夜志貴、お前によって殺された。それは紛れも無い真実」

「では貴様は・・・」

「ここにいる我々もまた『六遺産』なのですよ。七夜志貴」

「!!!」

俺の右後方から聞こえてきたのは

「風鐘・・・」

七夜風鐘がいた。

その胸には幼い赤子を抱き・・・

「何故とは無粋でございますわね」

「そうです。私達とは命の凌ぎ合いをした仲ではございませんか」

同じ顔でクスクスと笑い合うのは紅玉、青玉の姉妹。

「お主が葬った遺産も『六遺産』されどここにいる我らも『六遺産』」

「どちらも『六遺産』これは紛れも無い真実」

「そう言う事だよ。ここにいるのも僕達なんだ」

最後に現れたのは『禁断の三代』七夜籠庵、幻陶、紫影。

「どう言う事だ?お前達は確かに殺した」

確かに殺した筈・・・おまけに幻陶・紫影に至っては存在すら消された。

「何故か・・・と言いたそうだな。簡単な事」

だが俺の思考は直ぐに阻まれた

「なんだと?」

「あの時お前が戦った我らが我らで無いとすればどうかな?」

「・・・分身だと言うのか・・・」

「近いですわ」

「ええ、当たらずとも遠からずですね」

「早い話お前が戦った遺産は全て『六封』に人格、能力、更には『力の象徴』を模写させ形作ったもの。我々であって我々で無い」

「七夜志貴話は終わりだ。さあ進まれるが良い。神がお待ちかねだ」

「どう言う事だ??乱蒼」

「簡単な事、我らはあくまでも神の復活の糧にすぎん」

「神は既に貴殿を待っている」

「「「「「「「さあ・・・行くが良い」」」」」」」

その瞬間七人の『凶夜』が姿を消した。

「・・・」

俺は意を決して歩きだす。

その奥に待ち受けるであろう神・・・いや、『凶夜』の元に・・・







歩きだして五分後、終着はあっと言う間だった。

そこに夢で見た光景が広がっていた。

最奥部に六つの石膏で塗り固められた十字架、しかし、夢と大きく違うのは石膏は全て大きくひびわれもう砕ける寸前だったという事。

そして俺が到着したのを見計らったように、再び『六封』が現れる。

「神よ・・・時が参りました」

全員を代表して籠庵が口を開く。

「今こそ我らの御霊を持って最後の封を解き放ちましょう」

乱蒼が語を繋ぐ。

「我々の力を持って」

「神よこの地に再度の降臨を」

「そして僕達の無念を晴らし」

「「私達の宿願をここに叶える事を求め」」

幻陶、風鐘、紫影、紅玉・青玉が続けて唱える。

俺は動けなかった。

その空気に完全に呑まれていた。

「「「「「「「いざ我らの封よ解き放たれよ」」」」」」」

その瞬間『六封』の魂魄は瘴気と化しそれぞれの石膏に潜り込む。

同時に澄んだ音が響く。

全ての石膏が砕け十字架より解放された男が静かに着地する。

最初は微かな布を纏っていただけだったが空気が渦を巻き瞬く間に俺と同じ服装を身に纏う。

「・・・」

それは無言で立ち上がる。

「・・・時が来たか・・・兄者」

「ああ、あいにく俺はお前の兄では無い。だが・・・俺は彼の記憶と願いを受け継いだ・・・」

「・・・だが、それでもお前は兄者だ・・・では着けよう・・・太古の決着を・・・ん??・・・ちっ・・・『八妃』が来たか・・・」

「何??」

アルクェイド達だと?

「どうやってここを突き止めた?」

「おそらく兄者を追ってきたのだろう・・・だが邪魔はさせん・・・『六封』・・・『八妃』を足止めしろ。手段は問わん」

『御意!!』

声と共に『凶夜』の体から再び六つの瘴気が噴き出し気配と共に外に向かう。

「さて・・・兄者赴こう・・・我らの決着に相応しい場所に」

「それはどう言う・・・」

最後まで台詞を言える事は無かった。

俺の身体は突然現れた黒い空間に導かれたのだから・・・







時を再び戻す。

志貴が窓を蹴破ると同時に複数の影が志貴に襲い掛かった。

しかし、それらを悉くかわし、志貴は夕闇近い中庭に姿を消した。

そしてそれをただ見ることしか出来なかったアルクェイド達。

「・・・志貴・・・本当に・・・君は馬鹿よ・・・志貴」

そんな呟きが青子より漏れた。

その手に志貴のぬくもりが残る眼鏡を凝視しながら。

「ねえ!!ブルー!!ブルーは知っているんでしょう!!志貴が何処に行くのか!!」

アルクェイドが縋りつく。

「残念だけど私も知らないわ。でも・・・」

そう言うと、青子は沙貴に視線を向ける。

「沙貴、志貴の部屋は何処??」

「へっ??」

「志貴はおそらく何か書置きを残してある筈。そこに目的地の手がかりがあるかもしれない」

その声に表情を変える八人。

「す、直ぐに探してきます!!」

飛ぶような勢いで居間を後にする沙貴。

五分後戻ってきた沙貴はその手に一通の封書を手にしていた。

「青子先生・・・」

「あったのね」

「はい・・・」

そう言い、その封書を差し出す。

その中はすでに沙貴が見たのだろう。

その表情は重く暗い。

早速便箋を取り出し青子が読み出す。

『皆へ』

『多分これを読む頃俺は最期の決着をつけるべく屋敷を出て行っているだろう。遺書代りというのも妙な話だがここに全ての真実を記しておく』

『先日俺は最期の遺産七夜紫影を葬り『凶夜の遺産』は全て滅ぼした。だが、それは全て序幕でしかなかった』

「序幕でしか無いって・・・」

「そんな馬鹿な・・・」

『彼ら『凶夜の遺産』の最大の目的は三つ。一つは俺の力の発現を促し、俺の『直死』を『極無』・・・これは俺の体内に眠っていた究極の力、存在を消し去る能力・・・に昇華させる事。そして二つ目は俺に殺される事』

「どう言う事なんですか??殺される事が目的って・・・」

「静かにして下さい・・・」

「まだ手紙は終わっていませんよ」

『そして三番目は神の復活・・・これは二つ目の目的と重なるが、彼らは自らの体内に封印の鍵を一つずつ力として保有し彼らが滅ぼされた時その鍵・・・いや、力が神の元に返りその封印を解放していく』

「じゃあ・・・もうその神が・・・」

「ですが待って下さい。その神とはいったい何者なんですか?」

「あ〜もう静かに!!それも書いてあるわ」

『彼らが崇拝する神、その正体は、遥か太古の『凶夜』の始祖。そして七夜の始祖の双子の弟。彼の中には強大な破壊衝動が潜んでいる。いわば二重人格だろうと俺は推測している。そして太古において七夜の始祖が彼を封じた。だが、その魂魄は滅びる事無く時を待っていた。己の最大の目的を果たそうとする為に・・・『凶夜』の最大の目的・・・それは俺の持つ『直死』と『極無』を奪い取り己のものとする事・・・どちらにしろ、おそらく全ての『凶夜』の力を受け持つ『凶夜』を俺はそのままにしては置けない。おそらく俺に『極無』が宿されたのも全てが決定付けられていたのだと思う。だから決着を付けなければならない。約束された場所において・・・最後に、皆黙っていた事はすまなかった。だが、これは俺が遂行するべき仕事。だからこそ皆には黙っていた。もう皆が戦う事など無いから・・・必ず帰って来るからできればその時には・・・』

青子が読み終える。

「本当に君は不器用ね・・・こんな時位もっと頼りなさい・・・後から聞かされる方がもっと寂しいのよ・・・」

静かに溜息を付く。

教え子のあまりの不器用さに呆れて・・・

「でも・・・約束の場所って・・・どこなの??」

秋葉の呟きに全員が首を傾げる。

「おそらく『七夜の里』・・・」

「沙貴?何でそう言い切れるの?」

「あの時兄様は服の他は『凶神』と『古夜』と呼んでいた短刀だけしかお持ちになっていません。それは」

「それは国外ではなく国内と言う事。そして・・・」

「そして国内で七夜君に縁深い場所と言えば」

「「「「「「七夜の里しかない!!!」」」」」」

全員の声がはもった。

「こうしちゃいられないわ直ぐに志貴の後を追うわよ!!」

そう叫ぶや否やアルクェイドが飛び出そうとするが、

「お姫様それで良いの??」

「何でよ?」

「志貴がこんな書置きをした意味よ」

「意味??」

「どう言う事ですか?」

「おそらく志貴はお姫様達に知られない様にこっそりと抜け出そうとしていた。それだけこの戦いにお姫様達を巻き込みたくなかったからじゃないかしら?」

「・・・ですが・・・」

「志貴はそれだけこの戦いが危険だと知っていた。もっときっぱりと言えばお姫様達が邪魔だった」

「な、何ですって??」

「否定できるの??」

秋葉の声にも青子の冷静な声が返ってくる。

「そ、それは・・・」

「むしろここで志貴の帰りを待つのも志貴のためじゃないかしら?」

沈黙が暫し訪れる。

だがそんな中、

「・・・そんな事わかっています・・・邪魔だと言う事もそれだけ兄様の覚悟が深い事も・・・ですがそれでも私は兄様のお力となりたい」

沙貴が搾り出すような声を発する。

「そうよ・・・邪魔だったとしても志貴の近くで志貴を応援したい」

「それにもし七夜君が重傷を負っていればその時は私達の出番もあります」

それに反応してアルクェイド、シエルが決意を口にする。

「そうね。まったく兄さんと来たら何時もこうなんだから」

「翡翠ちゃん、準備は出来てる?」

「はい、姉さん」

「そうですね今は嘆いたり志貴の行為に愚痴を言うよりも志貴の元に駆けつけるのが先決です」

「・・・(こくん)」

沙貴達につられる様に秋葉、琥珀、翡翠、シオン、レンが決意の言葉を告げる。

それを見た青子は軽く笑うと、

「・・・わかったわ。じゃあ私が里の近くまで送るわ」

「どうして?ブルーも志貴を・・・」

「馬鹿な事言わないで。教え子を殺そうとするほど私は人間の情捨てていないわよ」

「青子先生お願いできますか?」

「ええお願いされなくてもそうさせてもらうけどね」







そしてアルクェイド達九人は『七夜の里』に到着した。

丁度志貴が『凶夜』と対面したのと同時にである。

「な、なに・・・これ・・・」

沙貴が絶句する。

里は瘴気と怨念に満ち溢れ異界と化していた。

「沙貴、七夜の里って何時もこんななの?」

「いえ、私が来た時はこんな瘴気なんて無かった・・・」

「私達が来た時だって・・・」

「それは当然の事」

その声は久方ぶりに聞く・・・しかし、決して聞ける筈の無い声だった。

「その声は・・・」

「まさか・・・七夜乱蒼??」

「ご名答」

「久しいですね七夜沙貴」

「えっ??風鐘!!」

「ああっ!!!あんた達、あの時の!!」

「うふふ・・・覚えていただいて光栄ですわ。ねえ姉上」

「そうね青玉」

「う、嘘・・・」

「嘘でも何でも無いよお姉ちゃん達。僕の事は当然覚えているよね?」

「!!あ、あんたは!!」

「どうして・・・彼らが・・・彼らは志貴が殺してきた・・・」

「七夜志貴が殺してきたのはあくまでも我らの力が擬人化したものに過ぎん。力ゆえに『六封』をその身に宿してな」

「左様、それゆえにわしら本体は何の影響も及ぼさん」

アルクエィド達を取り囲む様に現れたのは『凶夜の遺産』を司っていた『六封』。

「さて・・・どの道貴殿らは七夜志貴の元に向かわれるのだろう??」

「それなら僕達が妨害するだけ」

「もっとも・・・今更向かった所で七夜志貴と我らが『神』の戦いに介入は出来ませんけど」

「ですが・・・貴女方ならばいかなる術を用いてでも七夜志貴を救おうとする筈」

「ならばわしらはそれを防ぐ」

「それが私達『六遺産』の最期の勤め」

「さあ、いくぞ『八妃』我ら全ての『力の象徴』をもって歓迎しよう。七夜志貴の元に行きたくば」

「「「「「「「見事退けてみよ(みなよ、御覧なさい)」」」」」」」

その瞬間六つの『力の象徴』が姿を現す。

「まずいわね」

「ここは分担して敵と当たりましょう」

「そうね。どうやらこいつら過去の亡霊を倒さない限り先には進めないようだから」

「それなら私も手伝うわ。久しぶりに思う存分暴れてみたいからね」

「お願いします青子先生。では皆さん遺産を倒したらまたここに」

そう言ってそれぞれの敵に向かい合う。

アルクェイドは幻陶の『魂と共存せりし魔狼』と向かい合い、

「あんた初めて見る顔ね」

「それもそうだな。我の名は七夜幻陶。そこにいる紫影の父親にして七夜籠庵の息子」

「へえそうなの・・・じゃあ子供が起こした罪はあんたに償ってもらうわね」

「我が魔狼を相手にして出来るものならばな」

シエルは乱蒼の『千の空間を支配したもう千の腕』と対峙する。

「貴方とは実際には向かい合うのは初めてですがその能力は七夜君から聞いていますし、空間越しに見させてもらいました。同じ事が通用するとは思わない方が身の為ですよ」

「それは光栄の至り。だがそなたは避けきれるかな?わが空間を支配する王の求めに」

秋葉は紫影の『全てを傀儡たらしめん道化師』の前に立ちはだかる。

「・・・」

「へえお姉ちゃんが僕の相手をするの?」

「いけない事をする子供にはちゃんと折檻しないといけませんからね・・・」

「怖い怖い。でもさあの時のお姉ちゃん達は・・・」

「それ以上言うのなら・・・さっさと朽ち果てなさい!!」

青子と沙貴は紅玉・青玉の『理の異なる世を繋ぐ獏』に立ち塞がる。

「あら、『八妃』以外の方もいますわね」

「始めましてというべきかしら?私の可愛い生徒が世話になったようね」

「いえいえそれ程でもございません・・・それにしてもこれは僥倖ですわ」

「ええ、私達の八つ当たりの相手にこれ以上無い人選ですわ」

「・・・」

「私達と同じ境遇と立場でありながら・・・あれほど欲しがったものを簡単に手に入れた憎い女七夜沙貴を・・・」

「私達の手で殺せるなんて最高ですわ」

「そう簡単に良くと思うのですか?私は死ねない。兄様のお力になっていないから・・・それに私は兄様と永遠に共にいたいから・・・貴女達を破壊します」

シオンは風鐘の『時空を釣堀とせん翁』を相手として選ぶ。

「お初にお目にかかります。『八妃』最後の一人よ」

「そうですね時空をも捻じ曲げる異形の能力者」

「ですがあなたに勝てますかな?我が象徴に。ましてやあなたの力は」

「力があれば良いと言う者では無い。それを効率に扱えるかの問題なのですから」

「左様ですか・・・それは耳の痛い言葉。では・・・参る」

最後にレンと翡翠・琥珀は籠庵の『夢の語り部となす琵琶法師』と、

「ほう・・・夢を操る者はまだしも『八妃』の残りものがわしの相手となるか・・・」

「あらあら面白い事を仰いますね〜」

「私達を甘く見ない方が身の為です」

「そうじゃな・・・何しろ我らの主戦場は夢の中。ここではどの様な事も起こり得るからな・・・さてそれでは行くか・・・」

その瞬間夢の世界に落ち込む。

こうして里の随所で最後の決闘が開幕されようとしていた。

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